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クリストファー・プリースト 隣接界



四週連続で小説紹介、ラスト。ナボコフの「アーダ」がナボコフの英語で書いた小説の最高傑作と煽りに煽っていたのと同じく、プリーストの最新邦訳もプリーストの集大成だそうで、なんだかもうみんな肩の力が入りすぎて前のめりである。と言いながらもこのようにブログで紹介するということはおすすめでもあるわけで、確かによくできている。
1996年くらいに「逆転世界」を読んでぶったまげ、2005年に「奇術師」と「魔法」を読んでさらに感動にうち震えた。それからは邦訳が出ると必ず購入した。「逆転世界」はSFで、他もSFといえばSFなのだけれど謎解きだったりもして、そしてそれらの「からくり」がとんでもない発想で、ラストで驚愕、というわけだ。2013年に出た「夢幻諸島から」は短編集ということもあってか余りぴんとこなかった。仕掛けも小さい。なのでブログで取り上げなかった。とはいうものの、これでプリーストの小説を取り上げるのは5タイトル目。これは敬愛する阿部和重に次ぐ登場回数で、古井由吉とタイである。古井由吉も近年ついに衰えてしまって全然取り上げていない。いちばん新しい記事が2014年である。



しかしながら「隣接界」は大変に素晴らしかった。大きく分けると七部に分かれている。第一部のタイトルは「グレート・ブリテン・イスラム共和国(IRGB)」ときた。完全にフィクションの世界である。そこでは、女性はスカーフを被っている。で、第二部は、第一次世界大戦。第三部は第一部に戻る。第四部はノーベル物理学賞を受賞したリートフェルトの話。ここでこの小説の仕掛けが判る。だがプリーストの意図は判らない。第五部は第二次世界大戦。そして第六部と第七部でプリーストの意図が判明する。いっさいの予備知識なしで読むことをプリーストは望んでいるが、これまでのプリーストの著作に慣れ親しんだ人ほど、嬉しくなるようにもなっている。誠にサービス精神が豊富である。集大成的作品という煽り文句は、慣れ親しんだ人ほど嬉しくなることから来ているのだろう。彼が得意とする超一流の語り/騙りの仕掛けは、今作ではそうでもない。でも過去の小説にあったモチーフが「隣接」している。だからこそこのタイトルなのだろうということも解る。



日本語訳が途切れずに出るのは古沢嘉通という優れた翻訳者のおかげであるが、よくまあ早川も数字の見込めないものを出してくれるもんだ。しかも装丁は昔ながらのハヤカワポケットミステリと同じもので、SFは「新ハヤカワ・SF・シリーズ」とのこと。黄色い紙で小口は赤、ビニールのカバー。まさか金沢に新幹線が開通してもうすぐ東京で二度目のオリンピックが開催されようとするこの時代に、書棚へこの装丁の書籍が新たに加わるとは思ってもいなかった。早川書房はビニールのカバーが大好きである。私がこよなく愛するボリス・ヴィアンの全集もビニールのカバーで、紙よりも丈夫といえば丈夫だし防水性もあるので決して悪くはないのだけれど、経年変化でみすぼらしい色になっていくのは、つらい。かといってビニールを外して捨てるわけにもいかない。



いかにもSFというものがお好きなら「逆転世界」が断然おすすめ。典型的なSFのガジェットをふんだんに詰め込んでいて、まさかのオチ。まじかよと唸ること間違いなし。いかにもSFというテイストではなくSFっぽい舞台も装置もなくて謎解きの要素が強いのは「奇術師」と「魔法」のふたつ。これもその構造の斬新さや叙述の巧妙さにラストで驚くこと間違いなし。まずは読みやすく文庫でお手頃なその三つが良いと思います。どれかひとつでもはまれば、プリーストの邦訳を全て読みたくなります。絶対に。他の小説家では味わえない語り/騙りにまんまと騙されるこの上なき快感は、まだ読んだことのない人にしか味わえない極上の読書体験なのだから。

以上是千六百字丁度也


Wikipedia日本版:クリストファー・プリースト
Christopher Priest:公式サイト
翻訳ミステリー大賞シンジケート:初心者のためのクリストファー・プリースト入門(執筆者・古沢嘉通)
ハヤカワ・オンライン:隣接界
Amazon.co.jp:隣接界

こちらのブログ記事もぜひ。
クリストファー・プリースト「限りなき夏」
クリストファー・プリースト「双生児」
クリストファー・プリースト「奇術師」「魔法」
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