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水前寺海苔と葛素麺、そのほか



夏の九州の大雨で、真っ先に思い浮かんだというか思いを馳せたのが、小鹿田焼の里。そして、水前寺海苔。私にとって熊本といえば馬肉と水前寺海苔。ちなみに豚骨ラーメンは久留米が好きです。そんなわけで、久留米にある美味しくて間違いのないものだけを取り扱っている食料品店に「水前寺海苔があったら送ってほしい、他には、いつもの胡麻油と、いつもの海苔も、あと何か常温保存できるものでおすすめがあれば一緒に送りつけて」と問い合せした。そして届いた。もう既に随分日にちが経った、真夏のことだ。
水前寺海苔を知ったのは、学生時代にバイトしていた赤坂にある完全予約制のレストラン。1991年のことである。今では前菜だったのか何かのガルニだったのか全く思い出せないのだけれど、それだけ水前寺海苔の印象が強いということかもしれない。黒くて、サイコロ状。少し分けてもらって食べてみると、他の食べものにはない弾力で、清澄な香りがした。シェフに話を聞くと、海で採れる海苔ではなく、淡水で採れる藻だそうだ。食品として流通するだけの量を採るのは大変だろうなあとか軽薄そのものだった当時の私としては割と真面目に思ったりした。

水前寺海苔は、川茸とも呼ばれている。海苔でもあり茸でもあり、実はどっちでもないというのがおもしろい。最初に発見されたときは川苔と呼ばれたらしい。乾燥して板状にしたもの(私が学生時代にバイト先で食べたのは、これを切って水で戻したもの)が流通するようになり、江戸時代は将軍家への献上品となった。学名は“Aphanothece sacrum”で、つまり「聖なる藻」という意味だ。オランダの研究者が、水前寺海苔の生息する環境の素晴らしさに驚嘆して命名されたそうだ。水がそうなら、そこで育つものも清澄であり、生のままでも清澄であり、くさみはない。スイゼンジノリの採取は、成長すると水に浮いてくるので、そこを竹籠ですくう。採取したスイゼンジノリを塩漬けする。それから水で洗う。その後、選別する。乾燥させるものは乾燥させる。全てが、手作業。将軍家献上品が乾燥した板状だったのは、単に江戸時代には冷蔵庫がなかったからであり、生のほうが断然いい。

以来、日本料理屋や小料理屋へ行ったときに水前寺海苔が使われていると歓喜した。たいていは、刺身の付け合わせか、酢の物。一度だけ懐石で吸い物の実で口にしたことがあるくらい。それで充分にその弾力と風味を堪能できる。たまに何でもあるスーパーへ行くと、あったら購入していた。あたりまえである。なかったら購入できない。帰郷してからは、まさしく幻の食材となってしまった。そんなのどこにも売られていないし、料理屋でも使われていない。なのでたまに乾燥したものをネットで購入していた。で、夏、水害で朝倉市などの被害が連日報道されているのを目にして「あー、水前寺海苔は川だよな、どうなるんだろ、川」などとボエーッとしながら思っていたわけだが、そこでふと思い出したのだ。朝倉市の近くの久留米に、美味しくて間違いのない食料品屋があると。

問い合わせてみると、水前寺海苔もあるそうで、じゃあついでにあれもこれもとなり、以前から胡麻油といえばもうこれしか使えなくなってしまった鹿児島の伊集院物産の胡麻油や、有明海の海苔など、いつものもの、そして常温保存できる何かおすすめのものを、と注文した。届いたのは、こんな感じ。水前寺海苔は生のもので、注文した覚えのない「何かおすすめのもの」は、葛素麺と豆腐の味噌漬けが入っていた。何とびっくり、豆腐の味噌漬けにも水前寺海苔が入っている。私の好みをよく判ってらっしゃる。だからこそ安心しておまかせできる。







まずは、毎朝の食事にプラスしてみた。夏が旬の甘海老の刺身に、付け合わせとして水前寺海苔。それとは別に、水前寺海苔の酢の物。さらに豆腐の味噌漬け。味噌汁には有明海の海苔。梅干しは以前ご紹介した東農園の五福、添付の金箔をトッピング。主食はもちろん粥。甘海老に限らず海老は、頭から伸びてるやつをうまい具合につまんで頭を割ると、海老味味噌を綺麗に取り出せる。海老味噌に出汁と味醂と白醤油を加えてかき混ぜて、それを甘海老の身にかけて、軽く混ぜる。スダチを輪切りして種を取り除き、輪切りにされなかった箇所は搾って甘海老にかけ、皮はゼスターグレーダーで摺って甘海老にトッピング。








話は逸れるが、柑橘類の皮を料理のトッピングにするなら、ゼスターグレーダーが良い。チーズおろしやおろし金でも代用できるが、それはあくまでも代用に過ぎない。なぜゼスターなる道具がこの世にあるのかというと、そんなの「他では代用できないから」である。では何が違うのという話になる。ゼスターで摺ると。薄くて細かい。柑橘類の皮を料理にトッピングするのなんて目的の殆どは彩りなわけだから、色の白い部分など不要だし、苦みが増す。チーズおろしやおろし金で摺ったものと見比べてみるといい。粒状になった皮など、トッピングしないほうがましである。





話を戻すと、水前寺海苔の弾力は、やっぱり他にはないものだった。しかも味がないので、酢の物なら酢の物として、海老味噌なら海老味噌で、ちゃんと味つけしたら、とても美味しい。歯ごたえもちょうど良く、全然固くはないが、噛まずに飲み込むこともない。噛むときの弾力が楽しい。大きなものだと1cm角くらいある。ゼラチンや葛や蕨などの「粉」とは異なり、最初からその姿で自然にいる水前寺海苔の弾力は、たぶんまだ人間は製造できていない。注意深く噛むと、ミルフィーユのような層があることも判る。





豆腐の味噌漬けも、とても美味しかった。味がしっかりついていて、粥のおかずではなくごはんのおかずや酒の肴にぴったり。これもまた鼻腔が快感。イメージ通りにねっとりしていて、舌触りも良い。半分だけ食べて残りの半分は夜の酒の肴にしよう、これを一度に食べてしまうのは食べ過ぎなんじゃないかなとも思ったが、一度に全部食べてしまった。だって、止まらないのだ。そして止めねばならぬ理由もない。



次は、もうひとつ気になっていた葛素麺。朝倉市秋月は古くから葛の名産地として名高い。素麺だけでなくいろんなものが作られている。もちろん葛粉だけでも販売されている。久留米の食料品店の方が「一度ぜひ訪ねてみて」と言うくらいの土地なので、いつか訪ねてみたい。茶の産地にも、近いし。こちらも朝倉市秋月の十代高木久助という屋号の作り手。原材料は、本葛、国内産無漂白有機小麦粉、塩。潔いまでの原材料。大昔から変わらないものであることは間違いない。葛素麺は、特に細いわけではない。私の大好物である素麺、奥吉野高原の糸と比べると、比べるまでもないのだが、だいぶ違う。蕎麦切りのように切って麺にしているのが判る。茹でると、角が消えて丸くなる。葛が効いているのだろう。時間ぴったり茹でてザルに移して流水で揉んだら、柔らかいはずなのに弾力があって、力を加えて乱暴に扱ってみたが、麺は切れなかった。揉みながら、これは歯ごたえが楽しみだと期待がさらに高まった。













石川県の夏の料理のひとつ、茄子のオランダ煮。石川県では素麺と茄子を一緒に煮込むこともあるくらい、ポピュラーな組み合わせだ。オランダ煮についても書きたいがそんなことしてたらまた長文になるので一切書かずに先に進みます。葛素麺は、ぷるんぷるん。素麺か葛かと問われれば、葛と即答できるくらい、葛。きな粉と黒蜜をかけて食べても美味しいんじゃないのと思うくらい、葛。これも噛むのが非常に楽しい。他にない。ところてんのようにスカッとした歯ごたえではない。葛餅(を麺状にした)みたいなのかと言われると、そうでもない。そして、心と体が洗われるような快感に包み込まれる。小麦粉だけでは、こんなことにならない。





そしてもちろん水前寺海苔の酢の物も。椎茸と昆布の出汁と醤油「北陸」と千鳥酢。醤油についてはまたいずれ改めて紹介したいと考えているのだけれど凄すぎて凄さを文字にできないのでずるずるとのびのびになってる。





あとは、ちょうどこれもタイミング良く名古屋の友人から送られてきた銀ダラの味醂麹漬けと鰆の味醂味噌漬けを主菜にしたときの、味噌汁の具(実)として、贅沢にも水前寺海苔をたっぷりと使ってみた。一度は、石川県が誇る野菜の作り手である奥野さんのトマトと、石川県では金時草と呼んでいるものだから加賀野菜のひとつになってるけど実は本場が他の土地というノドグロ商法である金時草のおひたしと、地味に自分で面倒みている大根の糠漬け(大根の糠漬けと沢庵は異なる)と。もう一度は、懐石の始まりのように、削ぎ落とした感じで漬物もなく、隅切を使って。主食は、焼き魚が主菜なので、粥ではなくごはん。味噌汁を口へ運ぶと、ぷるぷるとした水前寺海苔が口の中へたくさん入ってきて、口の中がパーリーピーポーである。







久留米の食料品店は、ネット通販は野菜の詰め合わせセットしかやってない。なので私は相当なイレギュラーでお手数をおかけしていることと思う。かれこれ4回か5回メールで曖昧な注文をして、間違いのないものばかり。有機や無農薬にこだわっている。作っているところを自分の目で確かめないと気が済まない。そんな食料品店は、なかなかない。2015年の秋に実店舗へおじゃました。もうほんと宝の山だった。有機全粒粉のパスタと、有明海の海苔と、あと何だったっけ、顔を出してご挨拶のつもりが、割と買い込んだ。同行者も連られていくつか購入した。こういう店が近所にある久留米の人は、とても幸せで健康で健全だと羨ましくなる。金沢には、自然食品と謳う店がいくつかあるけど、偏って狭小な思想と選民的な主張でなんだか息苦しいし、自然食品を謳う人にありがちな肌の荒れっぷりだし、何よりも肝心の味がいまいちなものばかりだから。このへんは長野のパン屋さんの話で既に書いたので繰り返さない。

昨年から、応量器に動物性のものや香りの強い植物を盛りつけるのに抵抗が出始めてきており(いくらなんでも遅い)、そんなときは他の器を組み合わせるようになっております。ちなみに甘海老を盛りつけているのは、錫の板で、手で簡単に曲げられ、コースターとしても菓子皿としても小鉢としても使える、便利なもの。麺棒で平らに戻る。主に抹茶を飲むときの菓子を盛っている。錫は、金属の中では食べ物や水への影響が少なく、私が作っている花生の落としも錫。なので安心して食器として使える。錫をはじめとした金属の器や道具づくりが盛んな高岡で作られており「すずがみ」という商品名で、表面の処理で3種類、サイズで何種類かある。甘海老を盛りつけているのは、いちばん小さい11cm角。大きなサイズなら、深皿やボウルとしても使える。さらに、ハサミで切れる。大きな正方形を購入してまっぷたつに切れば、長方皿が二つできる。

水前寺海苔の製造者は、水害からすぐの7月27日に営業再開している。


以上是四千四百六十六字也


Wikipedia日本版:スイゼンジノリ
川茸元祖 遠藤金川堂:公式サイト
Amazon.co.jp:水前寺のり 22×32cm
楽天市場:川茸元祖 遠藤金川堂 スイゼンジノリ詰め合わせ・うま酢付き
十代目高木久助:公式オンラインショップ

Amazon.co.jp:すずがみ 11×11cm かざはな

Wikipedia日本版:平成29年7月九州北部豪雨
国土交通省気象庁:平成29年7月九州北部豪雨の関連情報
国土交通省九州地方整備局:平成29年7月九州北部豪雨災害に関する情報

産直や 蔵肆
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